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帰国子女にとって「国語」は鬼門か(8)

バカロレアでの日本古典文学もなんとかなる
 国際バカロレア(IB)でのDP「日本語A:文学」いわゆる「日本文学A」においても、日本古典文学は読まなければなりません。ただし、これは現代語訳も参照可ですから、言うほど大変ではありません。多少古語独特の言い回しや現代語と古典語の意味が正反対等極端な例を抑えておけば大丈夫でしょう。少なくとも日本の文系受験生のように古文原文を一語一語、時には一文字一文字丁寧に読むことは要求されません。文法の知識もほぼいりません。なので、言語センスのある帰国生諸君にはそんなに脅威ではないはずです。

古文のやっかいな点
 では古文はどうでしょうか。古文とは具体的には江戸時代より前に書かれた日本文学のことです。日本文学の最古のものは奈良時代のものですから、奈良時代から江戸時代の約1000年ちょっとの間の文学となります。ただし、一般的に古文というと最も古典日本文学が盛んだった王朝文学、具体的には平安時代の文学をイメージしています。ちなみに、文学史では奈良時代の文学を上代文学、以後、平安時代を中古文学、鎌倉・室町時代を中世文学、江戸時代を近世文学といいます。
 古文における第一の関門は文語文法です。日本の古典で使われている言葉の決まりを文語文法と言います。ちなみに今の言葉の決まりが口語文法です。日本の学校では、口語文法を中学校で、文語文法を高校で学習することになっています。中学でこそ口語文法はあっさりと流され、高校入試に出る頻度もそう多くないことから、重要度は大して高くないのですが、高校では文語文法はがっつり勉強させられます。というよりも文語文法が分からないと古文は読めないのです。従って日本の高校生といったら大半はこの文語文法に苦しめられています。苦労して文語文法をマスターした者だけが、文法問題の到達点である「紛らわしい語の識別」ができ、これができて初めて細かい訳し分けができるといった寸法です。
 この文語文法を理解するのに一定時間がかかります。中学の時に少しでも口語文法を理解していればその分楽になりますが、ゼロから理解するのは大変です。

 次に古典常識といわれる当時の独特な生活習慣を覚えなければなりません。なにしろ同じ日本人と言っても1000年も前の日本人です。生活様式には随分と違いがあります。ある研究の成果では、現代日本人の生活様式のもとをどんどん遡ってそのルーツをたどっていくと、どんなに古い物でも室町時代までといわれているそうです。従ってそれよりも前の平安時代、奈良時代の生活様式は現代日本人の中の先端を行く中高校生諸君にとって謎の世界です。それでも日本に生まれ、育った人であれば、身に沁みついた習性と言いましょうか、感覚的に理解することができます。ところが多感な時期に日本以外で過ごした諸君にはこの「習性」がなく(その代わり違う文化の習性をもっています)、感覚的理解ができません。これが帰国生諸君を苦しめるのです。

 具体的に見てみましょう。平安文学に重要な文学理念の一つに「をかし」と「あはれ」というものがあります。これはともに現代にはない美意識で、現代語に訳しようがない言葉です。従って、「情趣」とか「趣がある」というようになんとなくわかるような、わからないような訳語をあてています。しかし、両者は同じ訳語ではありますが、本来まったく異なる美意識を表した言葉です。というよりも対立概念といってもいいほどです。そこで我々国語教師はいろいろ例を挙げながら一生懸命説明します。結果、「なんとなくそんなことが昔はあったんだな」程度に理解してもらったらしめたものです。その授業は成功です。しかし、これを帰国生にも理解してもらおうとするとさらに苦労することになります。成功率もぐっと下がるでしょう。もう少し具体例を見てみましょう。「なぜ日本人は桜が好きなのか」「なぜ日本人ははかなきものへ美美意識を感じるか」日本に長く生活した人ならこの質問になんとなくでも答えをイメージすることができ、共感もしてもらえるでしょう。ところが、外国の友達にこう質問されたら、うまく説明できるでしょうか。そういうものだと納得してもらうことはできても、同じ美意識を共有してもらうのはなかなか難しいのではないでしょうか。それと同じことなのです。「敗者・弱者への思い」「『ドラえもん』での「のび太君」が理解できない欧米文化」といったことも同じくくりに入る問題でしょう。

 である以上、古文を深い所で理解するのは難しい。先の漢文で我々が「血の涙が出た」と表現に違和感を感じたり、聖書を理解していない我々が欧米の文学を深く理解できないのと同じことかと思います。実感として理解することが難しいのです。

 これに古典語(古語)という古文独特の単語を覚えます。その数約300語と言われています。まあ、英単語に比べてればかわいいものですが、言葉の意味を背景まで含めて理解するには先述の日本文化の壁が横たわっています。


(9)へ続く



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